オブザバトリーでの過去の企画展

ティーティアイネンとともに – キルシ・クンナスの童謡の世界

2023年4月29日~2024年3月31日

「ティーティアイネン、メッツァライネン、小さなメンニンカイネン……」フィンランドの詩人キルシ・クンナス(Kirsi Kunnas 1924–2021)の詩『ティーティアイネンの子守唄』はこう始まります。キルシ・クンナスは長年にわたり子どもたちに詩の楽しさを提供してきました。この企画展は、そんなクンナスの詩的世界を、遊び心たっぷりに視覚的に紹介します。企画展の中心となるのは、クンナスの詩にイラストを提供してきたフィンランドのアーティストたちのオリジナル作品。この企画展はThe Päivälehti Museumが企画制作、タンペレのムーミン美術館にて開催されます。クンナスは長年タンペレの隣町、Ylöjärviで過ごしました。タンペレはクンナスにとって地元ともいえるなじみのある街なのです。

キルシ・クンナスの詩は、フィンランド児童文学界の宝ともいえるもので、今でも新たな世代を惹き付けています。クンナスは、韻を多用した言葉遊びを用いながら、読む人、聞く人に慰めと慈しみをもって語りかけます。クンナスは、1956年に出版された一作目『ティーティアイネンの童話の木(Tiitiäisen satupuu)』から、2020年出版の最後の作品『ティーティアイネンの森(Tiitiäisen metsä)』まで、数多くの絵本を出版しています。

「ティーティアイネンとともに」展のデザインを担当したのはアーティスト、アレクサンダー・ライシュタイン(Alexander Reichstein)。キルシ・クンナスの詩を元に、楽しく冒険できるよう工夫されています。この企画展の中央には、北欧神話などに登場する世界樹(世界が一本の大樹で成り立っているという概念またはモチーフ)を思わせる童話の木が置かれ、その木には童謡が書かれた葉がぶら下がり、その周りには童謡に登場するキャラクターたちが絵やアニメーション、サウンドで表現されています。

クンナスの童謡の中では、挿絵も重要な役割を果たしています。挿絵も詩と同様に言葉を語りかけます。クンナスの詩には数々の挿絵画家が挿絵を提供してきました。多くの人に愛されてきた童謡に、新たな挿絵を提供するのは簡単なことではありません。しかし、クンナスの詩的世界は常に新たな解釈が可能なのです。ムーミン美術館の企画展では、現代作家によるオリジナルの挿絵を新たに加えて展示します。『Tiitiäisen pippurimylly(ティーティアイネンのペッパーミル)』の挿絵はユリア・ヴオリ(Julia Vuori)が、『Tiitiäisen tuluskukkaro(ティーティアイネンの火打ちぶくろ)』の挿絵はクリスティーナ・ロウヒ(Kristiina Louhi)が新たに描き下ろしました。ティーティアイネン・シリーズの挿絵画家として知られるクリステル・ロンス(Christel Rönns)、『Tiitiäisen kissa- ja koira(ティーティアイネンのねこといぬ)』の挿絵を描いたしたピア・ヴェステルホルム(Pia Westerholm)、またシルヤ ⁻ マリア・ヴィヘルサーリ(Silja-Maria Wihersaari)の新解釈による挿絵とともにご鑑賞ください。

トーベの本棚
2022年5月21日~2023年3月26日

ムーミンの本は読んだことがあっても、その作者がどんな本を読んでいたかはそう知られていないのではないでしょうか。この企画展では、トーベ・ヤンソン (1914–2001) の本棚を紹介しつつ、蔵書が語るヤンソン像を紹介しています。

トーベ・ヤンソンは、挿絵コレクションとともに、様々な言語に翻訳されたムーミン本をはじめ自身の蔵書をタンペレ美術館に寄贈しました。また、1989年には蔵書から410冊もの児童文学書やその研究書、パートナーのアーティスト、トゥーリッキ・ピエティラ(1917–2009)所蔵の冒険本をフィンランド児童文学研究所に寄贈しています。

この企画展は、読書家であったヤンソンの本棚から、異なる文化圏の物語、ブックアート、古典的児童文学を厳選して展示しています。摩訶不思議な民話やおとぎ話に登場する奇妙な生きものたちが織り成す挿絵芸術の世界をご堪能ください。書棚にある本には、大切な人から贈られた添え書きや「ex libris」と呼ばれる蔵書票が貼られていることがあります。ヤンソンの蔵書からは、ムーミンの物語へと通ずる流れを感じ取ることができます。また、そのコレクションからは一世紀に渡る挿絵芸術の歩みをみることもできます。印刷技術の進歩は挿絵作家に新たな表現方法をもたらし、トーベ・ヤンソンはそれを享受した先駆者でもありました。ヤンソンは本を一つの芸術作品と捉え、物語の執筆のみならず、挿絵、グラフィックデザインも担当しています。

企画展内のテキストは、フィンランド語、スウェーデン語、英語でご案内しています。

この企画展は、フィンランド児童文学研究所のご協力を得て実現しました。

毎日が楽しい:カミラ・ミクヴィッツ
2021年10月16日~2022年4月24日

挿絵画家カミラ・ミクヴィッツ(1937-1989)は、フィンランドではテレビの子ども番組「Pikku Kakkonen(ピック・カッコネン)」のロゴマーク作者としてよく知られています。ミクヴィッツの挿絵はカラフルな色使いが特徴で、それは制作当時の流行でもありましたが、今でも時代を超えてアーティストの画風をも伝えるものとなっています。ムーミン美術館2021年冬の企画展では、そんなミクヴィッツが生み出したキャラクター「エミリア」「ヤソン」「ちいさな魔女ミモサ」や「Pikku Kakkonen」のロゴマークなどの原画を展示します。

カミラ・ミクヴィッツは、才能あふれるビジュアリストで、彼女が描いたイラストはストーリー性に富んでいます。ミクヴィッツが生み出した作品は、雑誌の挿絵から子ども向けアニメーションや本の挿絵など多岐にわたっています。エネルギッシュな色彩、生き生きとしたフォルム、あえてバランスを崩したプロポーションなど、子どもの視点から子どもならではの経験を元に描かれています。ミクヴィッツの著作は、移民問題 『Jason muuttaa maasta、故郷を離れたヤソン』、環境保護問題 『Emilia ja kaksoset、エミリアと双子』、性差別問題 『Emilia ja Oskarin nukke、エミリアとオスカリの人形』 などのように現代社会が抱える問題を扱っています。

カミラ・ミクヴィッツはヘルシンキ生まれ、1940年代には疎開児としてスウェーデンで過ごしています。Taideteollinen Korkeakoulu(ヘルシンキの美術工芸大学)にてグラフィックアートを学び、広告業界で働いたのちフリーランサーとなりました。ミクヴィッツは、テレビの子ども番組のアニメーションや絵本の挿絵に加え、ノンフィクション本、新聞や雑誌、カレンダーなどの印刷物にイラストを提供。また、様々な媒体にて才能を発揮、水彩画から写真まで各種美術技法を繰るアーティストでした。

この企画展は、フィンランド児童文学研究所から所蔵作品を借用、およびその協力を得て実現しました。フィンランド児童文学研究所は、フィンランドの児童、青少年文学専門の研究所で、1978年よりタンペレにて活動しています。また、フィンランドで唯一の児童、青少年文学専門図書館を維持管理しています。その挿絵アートコレクションには、フィンランドの児童書挿絵画家による挿絵原画約4000点が所蔵されています。

© Camilla Mickwitz

マディケンから、やかまし村の子どもたちまで:イロン・ヴィークランドの挿絵アート
2021年5月11日~9月19日

2021年春のムーミン美術館企画展は、イロン・ヴィークランドの時代を超えた世界観へとご案内します。ヴィークランドは長きに渡り児童書の挿絵画家として活躍しました。最もよく知られた作品は、アストリッド・リンドグレーンの著作への挿絵で、『おもしろ荘の子どもたち』『やかまし村の子どもたち』『ちいさいロッタちゃん』『やねの上のカールソン』『はるかな国の兄弟』他、リンドグレーンに数々の挿絵を提供してきました。ヴィークランドの挿絵の特徴は、緑豊かな庭園、カラフルに彩られた木造の家、表情豊かに描かれた子どもたち、などによく現れています。展示作品はエストニアのハープサルという街にあるミュージアムIlon’s Wonderlandから借用、また、この規模のイロン・ヴィークランド展はエストニア国外では初の開催となります。

イロン・ヴィークランド(旧姓パーボ)は1930年エストリアのタルトゥ市に生まれました。幼少期をタリンとハープサルで過ごしましたが、1944年にストックホルムに疎開。そこで美術を学んだのち、Rabén & Sjögren(ラベーン&シェーグレーン)出版社にて挿絵画家としての職を得ます。作家アストリッド・リンドグレーン(1907–2002)と出会ったのはその頃のこと。その後長年に渡るパートナーシップを築くことになります。最初の共同作業は1954年に出版された『ミオよ、わたしのミオ』で、当時リンドグレーンはすでに児童書作家としてよく知られていました。ヴィークランドは、リンドグレーンが生み出した数々のキャラクターたちを生き生きと描いています。ヴィークランドが描く世界には、エストニアの緑に溢れた田園風景が背景にあります。その挿絵アートは今も多くの子どもたちを惹きつけて止みません。

イロン・ヴィークランドが寄贈した800点の挿絵原画は、ヴィークランドの祖父母が住んでいた家の近くに位置するIlon’s Wonderlandに展示されています。Ilon’s Wonderlandは大人も子どもも楽しめるファミリー向けのミュージアム。原画作品展示の他にも、来館者自身が絵を描いたり、工作したり、遊んだりできる他、映画や舞台、コンサートや教育的イベントを開催、また誕生会を開くこともできます。

Riikka Kuittinen.

ムーミンと海
2020年2月15日 – 2021年1月31日 

「島は生きている!わしの島は、木や海とおなじに生きているんだ。すべてのものが生きているんだ」
『ムーミンパパ海へいく』 1965年

今回の企画展「ムーミンと海」は、海をテーマとしています。ムーミンたちは海を冒険することが多く、作者トーベ・ヤンソン(1914-2001)にとってバルト海は大きなインスピレーションの源でした。ムーミン谷を取り囲む海の存在からも、ヤンソンにとってバルト海がいかに重要だったかが伺えます。バルト海がフィンランドの輪郭を描いているように、ムーミン谷の輪郭を描いているのも海です。

この展示では、ムーミンたちの自然にやさしい生き方を挿絵の原画を通して紹介しています。ムーミンたちは海へ冒険に出たり、海辺の岩場で楽しいキャンプをします。物語や挿絵の背景に、波打つ海の沖合の向こうに水平線が見えます。いきいきとした海は、物語の登場人物のひとりのようです。

ムーミンたちはいつだって自然に敬意をもって向き合っています。ムーミンたちのシンプルな生き方は、大地や海にやさしいものです。私たちも環境にやさしい日々の行動を積み重ねることで、海を守っていくことができます。海だって、一滴の水が集まって成るのですから。

2020年は、1作目のムーミンの本が出版されてから75年目の年となります。これを記念して行われるムーミン・キャラクターズとジョン・ヌルミネン財団による「OurSea(私たちの海)」というバルト海保護の大規模キャンペーンに、ムーミン美術館もこの展示で参加します。バルト海は地球上で一番若い海で、独特の生態系を持っています。私たちにとって唯一の海であるバルト海を保護することは、私たちの役割でもあるのです。

ムーミンアニメーション – スリルとやさしさに包まれて
2019年4月25日-2020年1月26日

2019年4月25日からは、企画展にてムーミンアニメーションの歴史を紹介します。トーベ・ヤンソン(1914–2001)のムーミン小説は今まで様々なかたちで映像化されてきました。アニメーション化されたムーミンもそのひとつですが、ムーミンアニメーションの歴史を紐解くとその始まりが約60年前にさかのぼることはあまり知られていません。

冒険はいつでもドキドキハラハラするものですが、ハラハラ感が過ぎると恐怖心が増して楽しめなくなってしまいます。ムーミンのお話はこのドキドキ感とハラハラ感のバランスが絶妙。だから最後まで安心して冒険を楽しめ、またムーミンのお話の暖かく優しい世界観はこういうところから生まれるのでしょう。ムーミンアニメーションが懐かしい子ども時代の思い出と重なったり、逆に我が子と一緒に観た懐かしい記憶を呼び起こす、あるいは心配事も悩み事も忘れてムーミンアニメに夢中になったこと、友人たちと何時間も一緒に観たことなど、ムーミンアニメーションを観たことがある方なら、きっと覚えがあるはず。

ムーミンアニメーションが初めてテレビで放映されたのは1959年のこと。これはドイツで白黒放映されたマリオネットによる人形劇でした。それから10年後には日本でムーミンアニメが制作され、1970年代にはロシア(当時はソ連)で、1970年代の終わりにはポーランドでパペットアニメーションが制作されました。ムーミンアニメーションの中で最もよく知られているのは日本で制作され1990年に放映が始まった『楽しいムーミン一家』でしょう。このシリーズは120カ国を超える地域で放映され、ところによっては何度も再放送される人気となりました。そして2019年春には、フィンランドのプロダクション会社Gutsy Animationsが制作する新しいムーミンアニメーションシリーズ『ムーミン谷』が始まります。

この企画展では、今までに制作された様々なムーミンアニメーションを上映し、同時にそれらの制作プロセスも紹介します。ご自分のムーミンアニメーション体験に思いを馳せながら、当時と同じようにテレビの前に座ってムーミンアニメーションをお楽しみください。

60年に渡って制作されてきたムーミンアニメーションも、原作のトーベ・ヤンソンのムーミン本とコミックスがあってこそ。アニメーションには、ムーミントロールとスノークのおじょうさん(日本で制作されたアニメーションの中では、「ノンノン」または「フローレン」)が橋の上で佇んでいる様子や、ムーミン谷の中心に建っているムーミン屋敷など、本の挿絵でおなじみの場面が登場します。ムーミン美術館は、このようなアニメーションの場面と、その元となった原画をムーミン谷コレクションの中から選んで展示します。なんといっても本の挿絵なしでは、ムーミンアニメーションも実現しなかったでしょうからね。

童話の世界-挿絵画家ウスコ・ラウッカネン
2018年12月15日-2019年3月31日 

ムーミン美術館「企画展-童話の世界」では、フィンランドの挿絵画家ウスコ・ラウッカネン(1930–2000)を紹介。その多岐に渡る長いキャリアにも関わらず、彼の名まえはあまり知られていません。それは彼の活動時において、挿絵画家という職業がそれほど重要視されず、出版時には画家の名まえが掲載されることがなかったことに起因しますが、彼の挿絵はフィンランドではよく知られています。

ウスコ・ラウッカネンは幅広い分野で活躍した挿絵画家およびコミックス作家でした。彼の作品の中で最もよく知られているのは絵本や子ども向けアルファベット教本でしょう。また、Otava社やValistus社出版の教科書などにも挿絵を提供しています。

子どものための絵本やストーリーブックには、生き生きとした挿絵が必要だ、との信条を持つラウッコネンにとって挿絵を描くことは大切な仕事でした。この企画展では、そんなラウッカネンが描いた挿絵の原画をご紹介します。

キャリアの後半には、広告イラストレーターやアニメーターとして、またコミックス作家としても活躍しました。特に彼のコミックスはそのユニークさから1988年にThe Finnish Comics SocietyよりPuupäähattu賞を授与されています。

「企画展-童話の世界」は、Finnish Comics Museumのご協力により実現しました。

シネマ・オブザバトリー-2018年6月26日~2018年8月31日

ムーミン美術館では、ムーミンたちがどのように世界を席巻していったのかを紹介する、ニナ・プルッキネン制作の映画『ムーミンブーム』のダイジェスト版を上映いたします。トーべ・ヤンソンとイギリスのアソシエイティド・ニュースペーパー社のコラボレーションにより、イブニング・ニュース紙でムーミン・コミックスの連載が始まったのは1954年9月20日のこと。ここからどのように、ムーミンたちの人気に火が付き、ムーミン・コミックスが世界中から2千万人もの読者を得るに至ったのか。そしてこれはのちに大きなうねりとなるムーミンブームの始まりでもあったのです。 (Parad / 15分)

トーべ・ヤンソンとムーミンたち-2017年8月9日~2018年5月26日

ムーミン美術館の企画展第一弾「トーべ・ヤンソンとムーミンたち」展では、ムーミンたちの原点は1930年代の「ブラックムーミン」にあり、戦時中に『ガルム』紙上に掲載された政治風刺画や、ムーミングッズが多数販売された1950年代の第一次ムーミンブームを経て、1990年代のムーミンアニメに至っている様子をご紹介しました。同時にトーべ・ヤンソンが10代の頃描いたムーミンの原型といわれるキャラクターをアニメーションで描き、1940年代にトーべ・ヤンソンが『ニュティド』紙上に掲載した初期のムーミンコミックス、1950年代に販売されたアトリエ・ファウニ社のムーミン人形やアラビア社の初代ムーミンマグカップ、そして様々な言語に翻訳されたムーミン本のオリジナル表紙画が展示されました。

Jari Kuusenaho.